1938年 千葉県成田市生まれ
1957年 県立佐倉高等学校卒業
1962年 千葉大学工学部機械工学科卒業
1962年 八幡化学工業入社
1964年〜1979年
名古屋大学工学部鉄鋼工学科助手、講師、助(准)教授
1979年〜1996年
国立豊橋技術科学大学生産システム工学系助(准)
教授、教授
1996年〜2004年
千葉大学工学部電子機械工学科教授
2018年
瑞宝中綬章受賞
令和3年5月まで日本材料試験技術協会会長
現在
工学博士
千葉大学名誉教授
豊橋技術科学大学名誉教授
主な著書
『硬さ試験の理論とその利用法』(英語版あり)
『現代の金属学 (金属加工)』共著、日本金属学会
『塑性加工技術シリーズ9(板圧延)』共著、コロナ社
『塑性加工技術シリーズ19(板圧延)』共著、コロナ社
『アルミニウム技術便覧』(カロス出版)
『自然の魅力を活かした技術開発』
古寺巡礼(大和)・園芸など
千葉大学工学部同窓会々報 45 (2018年)
中村雅勇名誉教授 瑞宝中綬章受賞
小山 秀夫
ここに心よりお慶び申し上げるとともに、先生の数ある業績の一端をご紹介したいと思います。
中村先生は平成8年12月より千葉大学に赴任され、8年にわたり本学工学部機械工学科に在籍されました。先生はその研究活動を通して、特に利用価値の高い魅力ある方法の開発においては、自然の中にそれに応用できる魅力ある挙動が必ず存在するという独自の発想の仕方を展開して、新しい加 工法の開発や材料試験法の開発に尽力されました。
加工技術では3次元圧延理論をはじめ、 異周速圧延による極薄板製造法や異種材の接合、特にすべりを利用した加工技術は、接合の分野に大きな影響を与えました。また浮動拡管プラグを用いた円管の曲げ法の開発では、管断面の形状、肉厚ともに高精度で厳しい曲げが可能な加工を可能にし、特許 の数は15個におよび実用化もされています。
また材料試験法では、特に硬さ試験について、不明確であった「硬さ」の物理的意味を系統的に解明し、その魅力ある利用法を含めて著書「硬さ試験の理論とその利用法」(森北出 版刊)としてまとめ、高い評価を得ています。現在注目されているナノインデンテーションについても20年以上も前にもととなる動的押し込み硬さ試験法を提案しています。
以上のような中村先生の研究業績に対し、学協会からは多くの賞が授与されています。先生は現在、材料試験協会の会長もされていますが、これからもお元気に活躍されることをお祈りしています。
書籍紹介
≪“硬さとは何か”を知ることで新たな材料特性が見えてくる≫
硬さ試験の基本である圧子の押込みによる材料流れを取り上げ,硬さに現れる各種現象の意味と材料情報を詳しく解説.
物理的に理解することで,硬さの新しい魅力に触れ,これまでにない利用法を探る!
Modern Metallurgy: Metal Processing (coauthor), The Japan Institute of Metals and Materials
Plastic Working Technology Series 9: Sheet Rolling and PlasticWorking Technology Series 19: Jointing, Corona Publishing Co., Ltd.
The Handbook of Advanced Aluminium Technology (edited by the Light Metals Association), Kallos Publishing Co., Ltd
お問い合わせは、小生または株式会社山本科学工具研究社にお願いいたします。
英語版をご希望の方は無料で差し上げます。
連絡先(中村雅勇):0476-93-1625
株式会社山本科学工具研究社
電話番号:043-431-7451
『自然の魅力を活かした技術開発
— 真面目なんかくそくらえ!!
どうせやるなら、驚かしてやれ!! –』
退官3年前に、理科系(医学・薬学・理学・園芸学部)の新入生に向けての講義です。
どういう考え方で、勉強や研究に取り組むべきかを伝えた講義の中で、使った資料です。
著者は子供の頃から機械いじりが好きで、将来機械技術者になりたいと考えて大学に入った。卒業後、企業で機械を扱ってから大学に戻り、研究生活を始めて40年近くになる。テーマを創出し、その研究に必要な装置を作り、実験して結果を整理する。これら研究全体にわたって、普段から身近にある自然現象に関心を持ちながら、新しい加工法や測定法、理論を提案してきた。この冊子は、それらをもとに開発した技術の発想、開発過程、技術を成功させるための考え方、技術者としての興味の持ち方などについて記したものである。
2003年3月発行
理系新入生のためのテキスト
技術者を志すものへの教訓
ー 自然に流されず、自然に逆らわず、自然を活かせ ー
工学とは自然の仕組みと素晴らしさを知って、それを利用することである。したがって究極の悦びは、禅僧が修行によって悟りをひらいた時の喜びのようなものである。
1 基本的な心構え
<〇若い内の苦労は買ってでもしろ!(古いことわざ)>
若いうちの苦労は頭のさびつきをとり,頭をスムーズに回転させる.頑張っても頑張らなくても若い内はその効果は出ないが,それ以後に実を結ぶ.そうすると年をとっても頭は軟らかさを保ち,面白く仕事ができる
<〇ただ頑張るだけではダメ頭を使え!>
考えずに頑張るだけでは多量のデータは出るが,平凡で内容のない成果しか得られない.
<〇テーマが面白くないという人は.面白いテーマでも成果はあげられない!>
どんなテーマでもやってみれば必ず魅力がでてくる.魅力が感じられない人はどんなテーマでもダメ
<〇技術開発には何事にもハングリーで現象に感動し.人をいかに驚かすかに心掛けよ!>
すべてのことに前向きに考え,且つ行動すること.
<〇日常の生活では常識的にふるまい.研究においてはあえて非常識にふるまえ!>
常識は知っていなければならないが,思いもよらぬ成果を期待して非常識なことを積極的に行う.しかし,非常識であることを意識していないと面白い現象も見過ごすことになる.
<〇講演を閏くとき.専門外では期待なしにゆったりとして閏け!>
講演内容が全体として捕らえられるほか,たまに,自分に関係する言葉が魅力をもって飛び込んでくる
真剣に聞いていると内容は分かるが,それだけに終わる.
2 テーマの創造
<〇テーマは現在注目されているものでなく,注目されていないものから選び,
それを注目されるようにすることのほうがやりがいがあるし,容易である!>
なぜなら,現在注目されているものには,多くの人が携わっているので,その中で抜きんでるのは大変である.
また,自分が一人前になった時には,その研究は盛りを過ぎていることが多い
<〇何でもよいから変わったことをしてみよ!>
それ自身に期待はできないが,面白さを感じる現象に出会うことがある.それをテーマにする
<〇やりつくされたテーマでやってみると,自然は複雑なのでなにか新しさを感じるはず!>
(感じ方が人によって違うので)それをテーマにする.
3 研究中,よりよい成果を得るための心構え
<〇計算は計算でしかできないことに用いよ!>
現象を理想化した状態での計算から各因子の影響の様子を理解して実験結果と対比すると現象の真実が解朋できる.さらに新しい展開へのヒントが得られる.
特に現実にはない状態は計算の独壇場で,意外に面白い知見が得られる!
<〇予想外の魅力ある現象に気づくことが,大発展の第一歩>
予想通りの成果には感動がない.在来の理論からは予想できない現象に気づくことこそ,研究の喜びである.
<〇研究を進めるにあたって常識(教科書的)にこだわらず,常識に対して一度は疑ってみる!>
少しでも在来理論では無理を感じる研究結果は,思い切ってその結果が説明できる新しい理論をたててみる.
意外に全ての研究結果が無理なく説明できて,大きな成果となることが多い
<〇研究にはストーリーが無ければならない!>
(1)仕事をする前のストーリーと,一日仕事をした後でのストーリーに変化がなければ,その一日仕事をしなかったのと同じである.
(2)研究成果をストーリーと比較することで問題点が早くつかめ,無駄が少なくできる.
ストーリー外の現象に出会った時その現象の魅力が的確につかめ,大きな発展につながる.
<〇問題に突き当たったとき,中央突破ができなければ,その研究から撤退するのも技術の一つである.その際問題の本質を徹底的に考えておくと,将来問題解決のヒントが得られる確率が高い!>
解決できない場合や面白い展開ができない場合は,ただ頑張っていてもよい結果は得られず精神的にもよくない.
思い切って見切りをつけると気持ちがすっきりして,比較的短期間で魅力あるひらめきに出会うことが多い.
<〇進行中の研究内容の理解が,眼鏡無しで見ているようにボンヤリしていては,問題点の原因解明,新しい展開はできない!>
景色がボンヤリしていては的確な行動はできない.何が分かっていて何が分からないかが,わからなければ研究していても無駄骨に終わる.
<〇研究には余裕と遊び心がなければならない!>
楽しく仕事ができるとともに研究の幅が広がる.ひらめきは余裕の中から生まれる.目的範囲外のことを遊び心で実験すると結果に興味がわくし,意外な情報が得られることがある.
<〇実験計画をたてるとき,実験範囲を常譴に対して桁違いに広くせよ!>
その利点は
(1)データにバラツキがあっても,測定範囲が広いので相対的にバラツキは小さくなる.
(2)ケタ違いに離れた範囲のデータは誰も経験がないので,まれに魅力ある現象に出会い大発展につながる可能性がある.
4 成果を整理するときの心構え
<〇データは自然が自分に対して示す意志,だからいじってはいけない.
線は自分の意志,だからどのように引いてもよいが自分で責任を持つこと.>
自然が示すデータは大事にする.一方,データの解釈を積極的にして線を引いていると,意外と早く真実が見えてくる
<〇データの整理に努めよ!>
その結果として,成果の魅力が改めて理解できる.さらにその成果が的確に示せるような実験を改めてやると理想的なデータになる.
<〇データのバラツキは実験誤差も含めて貴重な情報である!>
データは複雑な自然が示すもので,バラツキはその整理ではできない因子が含まれていることである.
<〇結果が予想外であっても失敗と考えるな!>
こうなったと思えば別の技術への展開につながる.
<〇飛び離れたデータは,初めからやらなかったことにして図に出さないで,心の中にとどめておく.>
いつかその原因は分かるものである.そこで初めてデータを図に出すと,そのデータが意外に効果を発揮する.
<〇図や表を作るためだけがテータではない!
実験中に観察される現象こそ魅力あるデータである!>
いつかその原因は分かるものである.そこで初めてデータを図に出すと,そのデータが意外に効果を発揮する.
5 成果を整理するときの心構え
<〇内容が理解されないのは.発表の仕方が悪いのであって.閏き手が悪いと思うな.>
場違いの質問が出たら,勘違いされた理由を考え,間違われないような工夫に心掛ける.
<〇データがあるからシャべルのではなく,シャべリたいからデータを使うのである!.>
データに振り廻されていると,成果は理解されない.
<〇図は説明なしでも分かるように整理せよ!>
内容は図にしゃべらせろ.整理の悪い図では多くの言葉を必要とし,しかも言葉が多いほど内容は理解されない.研究成果のすばらしさを知ってもらうことが第一である.
<〇頭のよさをひけらかすのはダメ!研究成果を理路整然と展開しても閏き手に伝わらなければダメ!>
誰にも分かるように理解しやすく説明することに心掛ける.
<〇ストーリーがはっきりしているほど内容は理解される.>
ストーリーに関係がないことはできるだけ除く.最後に成果がどれだけ役に立つか具体的に述べる
6 就職先を決める時
<〇背伸びして大きな会社に入るより.自分の身の丈(能力の80%)にあった会社にはいれ!.>
面白く仕事ができるし,結果として能力以上の成果があげられる.
7 指導的立場になった時
<〇研究結果の報告を受けているとき報告者から場違いな言葉が出たら,
おかしなことを考え,していると思え!>
その言葉から連想すると,おかしなデータの原因が分かる.
<〇能力のある者の尻はたたくな!(心理的においつめるな)>
せっぱつまってはアイデアはでない.
せっぱつまっても心のどこかにゆとり・余裕がなければならない.
<〇研究詣導において学生にみっともないところを見せろ!>
最初から最後までスムーズに進む研究では本当の教育はできない.
研究の途中,障害にあたってみっともなく右往左往する大変さと,終に障害を乗り越えた時の喜びから,完成に至るまでの研究過程の姿を見せ体駿させよ.
<〇与えるテーマは夢があるうえに,完成不可能なほど難しいものにせよ!>
完成しなくても,やさしいテーマより大きな成果が得られる.途中で意外な展開ができる可能性がある.
いつか又、どこかでそれらを話せる機会があれば幸いです。
長い研究生活から得たもの
長い研究生活から良い成果を得るためには、普段から心得ておく必要があること
- 普段の状態では誰も興味を持たないような平凡な自然現象を、改めて興味を持つ癖をつけてそれを続けていくと年とともにその数が多くなる。 それが目的の研究中に困難に突き当たった時の解決法になる。その困難の原因を根本から考えると、今までに頭に入っている自然現象の中からそれにあったものが突然浮かんできて、魅力的な結果が得られることが多い。
- 教科書に載っていてすでに常識になっている自然現象に対しても、他人からはつまらないと思われるような実験でも、疑問を持ってすると、思いもよらぬ利用価値の高い真の理論が得られることがある
- 他の人が開発した方法について再度考えると、意外にも魅力ある別の方法が見つかることがある
- 他の会社や研究者がやっている方法や加工法を、ふとこのようにしたらと、別の方法に思いつくとそれが新しく魅力ある利用価値の高い方法になることがある。
- ある現象の原因を明らかにする実験をした時、グラフにするデータは重要である。しかしグラフに用いるデータはほんの一部で、実験中に現れる各種の現象も重要なデータである。このデータはその実験をやったから得られたものである。そのデータに興味を持っていると将来貴重な研究の種になることがある。
- 実験を含む研究で予想に反した結果になってもそれを失敗と思わず、「このようになった」と思ようにする。その実験で起こっている現象は、その実験をしたから見られたものであり貴重なものである。その数が多くなると物の見え方が広くなり、研究開発に対する能力が大きくなる。
- 研究をする時の心構えは、一般の人でも普通に理解できる様な結果ではなく、びっくりし感動する様なことを開発しようと普段から思っていると、価値の高い方法に気付く可能性が高い。
-
研究課題は少なくとも3つ以上持っているとよい。
一番研究価値が高いと思われることに挑戦すると、必ずと言っていい程困難な問題に突き当る。
その時は難題の原因を徹底的に検討して、ダメなら撤退する。そして順調に研究ができる別の課題に移ってやると心が安らぎ、気楽な気持ちで研究ができる。その時何も考えない時が来る。すると中断していた難題の研究がふと思い出される。その瞬間、その難題を解決する重要なヒントに気付くことが多くある。
この時の頭の中は冷静で何も考えていない状態で、別の言い方をすれば短時間ではあるが冷静に座禅を組んでいる僧侶の頭の中と同じ状態にあると思う
つぎは小生の人生を左右した最大の例である。
大きな研究課題を群めて、他の研究課題に移ったがそれを大きな課題に出来たことで現在がある、という話である。
その研究課題は、望性加工の中で、板の成形は自動車の製造のほか他多方面の加工で加工性の高い材料とその加工法を明らかにすることが、産学官の3者で盛んに研究された。板は加工に適した異方性のある材料をつくることである。その異方性の状態は引張試験で求めた。そしてそれから得られた情報をHillの異方性に適用して、降伏曲線として各種変形での変形のしやすさを推定した。しかし実際の材料の降伏曲線がHillの理論にあうとは、誰も完全には思っていなかった。しかし、降伏曲線を実験から求めるには薄板では引張りとは逆の圧縮はできないし、さらに多方面から力が加わる複雑な変形となる多軸試験はなおさらできない。
そんな時、技官の人が薄板を重ねて型削り盤のバイスにはさみ、切削油をつけながら切削し、四面全体を削ってバイスからはずすときれいなブロックになった。技官の人はそのブロックから薄板を一枚ずつはずす作業をしていた。それは大きな力を必要とし「力を入れすぎると板が曲がってしまい、試料にならなくなるので教授から怒られる」と言った。 それを見ていた小生は「あんなによく着いているなら、そのまま圧縮できるのでは」と思った。板同士を着けるには切削油ではなく、接着剤、それも溶剤を用いない2液を使うもの(アラルダイト)を用いて試したところ、10%圧縮できて感激した。さらに研究して複雑な変形を可能にした。それから得られた降伏曲線はHillの異方理論から得られた結果とはかけはなれたもので、従来からわからなかった現象の原因を明らかにできた。
一方、硬さ試験も硬さから材料の異方性が求まるなど面白い方向に研究が進んでいた。そこで硬さ試験の研究の面白さを教授に話したところ「著名な先生が(硬さ試験での材料の変形は塑性変形なので、硬さの研究は望性加工屋がやるべきだ)と言っていたが、研究成果はあがらずに終わっているだろう。だから君も硬さの研究には注意しなさいよ」と教授から言われた。それに対して小生は「主な研究は成果の大きな降伏曲線で、硬さ試験の研究は楽しみながらやるつもりです」と答えた。
その後学会への論文は、小生と教授と大学院生の3名で発表されていたが、大学院生が博士課程になった時、論文に小生の名前がなかった。そこで学生に「何で僕の名前がないのか」と尋ねたところ「教授から小生の名前をはずせと言われた」と言った。
そこで教授に「この研究は1から小生が考えたものであり、この研究から小生の名前が除かれる理由はない」と言って抗議したところ、しばらく沈黙があった後、教授から「君の将来は誰が面倒みるのかね」と言われた。
ショックが大きく、両耳が真っ赤になっていることを感じた。このままでは博士号もとれないだろうし、したがって上にあがることもできない。そして若い人が上に来たら、状態によっては辞めなければならないと思った。結局それに従うしかないと思うまで 15分〜20分かかり、沈黙が続いた後、丁寧にお辞儀をして教授室から出た。
廊下は夜で薄暗く、涼しい風がふいていた。その時「ああ、明日からは研究が進んでいる硬さ試験をしよう」と思うと次第に心が落ち着いてきた。
降伏曲線のことは忘れて硬さ試験の研究に専念した。それ程落ち込まないですんだ。
これは複数の研究を同時にやっていたおかげだと思い、結果として現在があるのだと思うので他の人も参考にされたい。
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普段から付き合う友達に自分と異なる分野で活動している人がいると、雑談の時、自分の考え方と異なることを言うのでその魅力を大切にしたい。考え方は人によってさまざま。自分にない考え方が多いのでそれを意識すると、自分の考え方が広くなる。そして自分の持っていなかった考え方ができるようになる。
研究の幅が広がり、今までには考えなかった新しい研究分野に挑戦できる。
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実験で生じている異常な結果の原因を、常識的に知られている現象に安易に結びつけることは、批判されることは少ないが、大事な本当の原因を見逃すことになる。
簡単に説明できない現家については、より深く考え、わからなければ頭の中に入れておく。
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現象の原因を解明するための実験におけるバラツキ
研究は現象に影響する因子とその効果を明らかにすることになる。
実験では予想される大きな影響因子について調べる。そのために各種材料に各種の処理を施して試料にする。そして、グラフとして縦軸は目的の現象とし横軸は調べたい因子にするとその因子の影響の様子がわかる。しかし測定値は縦に対してバラツキがある。材料の不均一とみられることが多い。そのバラツキを考慮して、もっともらしい線を書いて、それを結果と考える。しかしバラツキが大きいほど結果の信頼度は低くなる。大きなバラツキは他の因子の原因と考えることもできるが、しかし、バラツキそのものに関心を持つ人は少ない。
実験結果から得られた現象と影響因子の関係を示す曲線に対して、高くバラツク測定点と低くバラツク測定点を考えるとある特徴があることが多い。しかしその特徴だけではそのバラツキの原因はわからないことが多い。それらについては、そのことを頭に入れておくとよい。特に飛びぬけてバラツキの大きいものについては、その試料の実験はやらなかったことにして、図上にはのせないことにする。質問されても答えられないので、そのことは特に関心のあることとして頭の中に入れておくとよい。中には修正するという人がいると聞くが、事実を偽ることは決してあってはならないことである。
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よい研究成果が得られた後に考えること
良い成果が得られ、その価値の高さが高い程喜んでいると思う。しかし、喜びが一段落した後はその周囲を考え、良い結果を得るまでに生じた現象を振り返ると、別の良いアイデアが生まれることがある。
一方、良いことだけでなく、同時に悪いことを含んでいることがある。悪い方法で出来た製品を目的とは違う逆の有害な物が出来たり、目的の製品を作る際に副産物として有害なものが出来たりする。
したがって、悪いことが考えられるときは、良い成果だけでなく悪い物ができる可能性も合わせて、その研究成果を公表すべきかどうかを考えるべきだと思う。
これはエンジニアだけでなく、他の社会で一般の仕事をしている人にもいえることである。とかく悪いことは考えなかったり、悪いことに気付いても言わずに、ただ良い成果を自慢げに話している人が多いが、他の人が悪いことに気付いて指摘される前に、気付くべきである。
小生の研究方法と結果に対して、他の研究者から言われて嬉しかった言葉
- 中村先生の研究はneedsではなくseedsですね。
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私には硬さの研究で尊敬できる先生が2人います。
一人は東大の吉沢先生です。それまで硬さ試験の利用法が確立していなかったので、信頼できる試験ではなかった。そこで先生は各硬さ試験の利用方法を確立し、規格まで作った。そのため硬さ試験は信頼できる利用価値の高い材料試験になった。
もう一人は中村先生です。試験中の複雑な圧子下の変形を明らかにし、硬さ試験の物理的意味を明確にし、理論ずけた。その結果、今まで評価できなかった材料特性が硬さ試験で評価できるようになった。
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小生の硬さの研究方法に対する高い評価
◎学会誌の年間展望に「圧子下の変形を表すモアレ縞がこんなに鮮明なものは今までにはなかったので、この人の硬さ試験の研究は進むことでしょう」
◎薄板の成形性に対する講演会で、有能な先生から「硬さ値はスカラー量であるが、君はベクトル量にした。これには感心した。それにより薄板の成形性の評価をできるようにした」
- 先生は金属をまるで生きもののように扱いますね。
- 先生は面白く魅力ある方法を次々と出しているので、次は何を出してくるかといつも楽しみにしています。
- 千葉大学を定年退職するとき「あと10年早く本学に来て欲しかった。そうすれば真の研究方法がわかり、私達はもっとよい研究成果が得られたと思います」
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豊橋技術大学にいた時は色々の主催者から度々講演を依頼された。内容は他の人にはあまり関心がないようなものの中に大きな魅力を感じるものがあり、その魅力について話をすることにした。ある時講演後、中小企業の社長の名刺を差し出しながらそばに来た人が、「いつも聞いています。面白い話でこれからの仕事の役にたちます」と言った。
その後出席者に関心をもつと、前列には比較的年配の人が多く、回数が進むとその人数が増してきた。そして講演後彼らは集まって「あの方法はあの製品の開発に使えるのではないだろうか」等と話していた。それを聞いて小生は楽しくなった。
小生の行動に対するトピックス
- 千葉大学に来たら研究室に女子学生が一人いて、彼女の友達がそこに遊びに来ておしゃべりをしていた。それを聞いた助(准)教授が「中村先生はいつもニコニコしながら講義をしている。そしたら私達もニコニコしながら聞かなければいけないかしら」と彼女達が話していましたよと小生に言った。小生は理論をそのまま話すのではなく、わかりやすく覚えやすいように面白く話していたためだろう。それは小生にとっても楽しくなる話だった。
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小生は学生が研究している現場にいることは少なく、部屋に学生を呼んで研究の進み方を報告させていた。学生同士が話をしているのを聞いた助教授が「中村先生は我々が実験しているのを後ろで見ているようなことを言っている」と話していたと小生に言った。
学生の話を聞いていると、言葉の中に、この研究では違和感があるので「君はこんなことをしているのだろう」と言って間違いを指摘し、正しい方法を言うようにして学生に納得させた。しかしまれには学生の言葉の中に興味のある現象を含んでいるものがあって、新しい研究の種になることもあった。
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小生が意外にも嬉しかったこと
小生はいつも学生を怒っていた。大学の中でもそれが評判で、副学長と一緒に妻の車で大学に行った時、副学は「我々は昼間だけだが奥さんは24時間一緒だから大変ですね」と笑いながら話していた。
小生は実験室にはあまり行かず、定期的に学生を部屋に呼んで研究報告をさせた。学生に話をさせて小生は黙って聞いていた。その際、この研究にとっては妙と思われる言葉がでてくることがある。それを考えるとこの学生は研究の内容や課題を間違って考えていることがわかり、大きな声で突然怒った。するとぼろぼろと泣き出す学生もいた。チリ紙を数枚あげて、研究内容を丁寧に説明し、学生の考え違いを指摘して、その後で「この様にやりなさい」と言い、最後に「ガンバレよ」と言って帰した。
学生が帰った後、小生は自分の椅子に座って考えた。「あの方法では大変だな」と思い、何か良い方法で成果の大きいものがないかと考えると、面白く良い方法に思いつくことが多かった。そこでそのことを学生に言おうと思って、小生は6階、学生は4階にいたのでサンダルで階段を降りていった。そのサンダルの音が大きく、学生の部屋に入ると学生がすべて自分の机で勉強している様に静かだったので少し違和感があった。
そして千葉大学で定年を迎え、最後に学外の人にも知らせた講義(それを最終講義と呼ぶ)をした。豊橋技術科学大学の卒業生が多く出席してくれた。それからその日の夕方横浜の中華街で、同窓会を兼ねてお祝いの会を開いてくれた。その時一人の卒業生がそばに寄ってきて「先生は学生を怒った後は必ず“なぐさめ”にきましたね」言った。
びっくりした。小生は“なぐさめ”に行ったということは一度もなかったので、そう思ってくれたのかと思うと嬉しくなった。
実際は怒られた学生が部屋に戻ると他の学生等が集まって「何で怒られたか」など話していたのだろう。そんな時小生のサンダルの音がすると「来た、来た」と言って、急いで自分の席に戻って勉強しているふりをして、空耳をたてていたのだと思ったら本当に面白くなった。
学生を怒ってばかりいたので、小生を根性の悪い人と思っていたと思っていたら“なぐさめ”という言葉は思いもよらなかったので本当に嬉しかった。
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問題の学生の扱い方法
学生によっては研究報告を聞くと、その都度目的の研究内容を理解しておらず、研究の目的に合わない実験結果だった。特にこの分野では常識的なことなので、それを小生が言わないと必ず間違って実験し、その度に怒ることになった。そのことがあまりにも重なった時、その学生に「君はこの様な研究には適さない。
いつも怒られていると人間が小さくなってしまう。世の中は広く色々の仕事があるので、自分に適した仕事を探すのがよい」と言って、小生の顔が利く会社の中から、その学生にとって適していると思われる会社を紹介し、結果として就職した。したがって大学は中退となった。
しかし、その後の同窓会に卒業生と同じように出席して楽しんでいるのを見て、ほっとした。
- 同窓会の名称の面白さ ある学生が小生の部屋に来て「同窓会をつくろうと思っているのですが、名前は『しごき会』でよろしいですか」と言った。突然のことに本当に驚いて、小生は「そんなバカなこと言うなよ。そんなこと言われたら恥ずかしくて仕方がない。それなら英語にしろ」と言った。 ビール用のアルミ缶の側面はしごかれて薄くなっている。そのしごく加工を英語では“Ironing”と言うので同総会の名前を「アイオニングス」と呼ぶことにした。 後で考えたら、小生の指導の厳しさの特徴をうまく表現して、聞いた皆さんに面白さを感じてもらおうとして考えたのだろう。 今では「しごき会」でもよかったと思うし、逆に他の人から珍しい名前なので、その理由を聞かれたら面白がると思う。 これからは「アイオニングス(しごき会)」としてはどうだろうか。
以上は小生の長い研究生活から得たことであり、若い皆様にお役に立って頂ければと思います。
またこのことを読んだだけでは具体性に乏しいと感じられると思います。そこで小生がやってきたことを具体的に書くことで、上記のことがよく理解されると思います。
後日、エッセイ集やノンフィクション集にしたいと思っています。
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電話番号:0476-93-1625
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